この記事のタイトルを見て、「腰痛とマインドフルネスになんの関係があるんだ」と疑問に思われた方も多いと思います。
確かにいくら注目されているマインドフルネス、つまり瞑想であっても身体の痛みにまで効果があるとは考えにくいでしょう。
しかし、実はマインドフルネス流行の先駆けとなったプログラムは、身体の痛みを軽減させることを目的にしていたことをご存知でしょうか?
そのプログラムの開発者、そしてアメリカで最も権威のある医学誌JAMAの臨床実験の結果から、瞑想と身体の痛みの関係性が明らかになってきています。
今回は身体の痛みの改善という視点から、マインドフルネスは腰痛に効果があるのかという疑問について解説していきます。
マインドフルネスとは?
腰痛との関係性を見て行くためにも、簡単にマインドフルネス自体について確認します。
マインドフルネスとは、「評価や判断をせず、いまここの経験に対し能動的に意識を向ける」という心理状態、またはその過程です。
瞑想そのものをマインドフルネスと称することも多いですね。
この状態はなにも考えてないのではなく、自分の呼吸、食べているもの、筋肉の動きなどに意識を向け、目の前のことだけに集中している状態です。
そうして物事に対する評価、判断などの選択的思考、明日への不安、過去への後悔などの不安や恐怖を考えないことで脳を休憩させたり、より集中的に作業を行えたりできるようになります。
その効果は主に以下のようなものがあります。
・脳疲労回復による集中力の向上
・脳の偏桃体、前頭葉の変化によるストレスの低減、ストレスダメージの軟化
・人間関係のストレスにも強くなることによる、コミュニケーション能力、共感性の向上
・脳の海馬の成長による記憶力、学習力の向上
他にもたくさんありますが、私たちにとって直接関係ある効果は以上のものでしょう。
マインドフルネス実施は、精神的な安定やコントロール術が身に付くだけではなく、脳の構造を変化させることで多くの恩恵を人間に与えてくれます。
Appleの創業者スティーブ・ジョブズ氏、テニスのジョコビッチ選手、元サッカー日本代表キャプテン長谷部誠選手なども取り入れていたことで有名ですよね。
ここまでが、一般的に普及しているマインドフルネスの主な解説となります。
マインドフルネスは腰痛に効果がある?
先述の説明では、いまいちマインドフルネスと腰痛との相関性が見えませんよね。
しかしマインドフルネスと腰痛、つまり身体の痛みとの関係については、現在までの多くの臨床実験や脳の構造変化の研究にて解説がなされています。
まずは実際に腰痛に対する臨床実験の結果を見ていきましょう。
米国医師会誌JAMAの実験結果
世界五大医学誌の一つJAMAでは、慢性腰痛に悩まされている20~70歳の男女324人を無作為に、
1. マインドフルネスストレス低減法と呼ばれるマインドフルネスプログラム
2. 認知行動療法
3. 指圧などの一般的なケア
を行うグループに分け、実施26週目での日常生活制限度合いを、自己申告にて聞き取り調査を行いました。
その結果、改善がみられたと答えた割合は、一般的なケアを行った3のグループは44.1%だったのに対し、マインドフルネスを行った1のグループは60.5%と高い割合となったのです。(2のグループは57.7%)
さらに痛みの大きさに関しても、マインドフルネスを行ったほうが改善の度合いが高いという結果になりました。
なぜマインドフルネスは腰痛に対して効果が出たのか
体の痛みは、痛んだ箇所からホルモンや神経を通じて脳の「痛みの回路」に伝わります。
この仕組みによって私たちは痛いと感じるのです。
しかし、実はこの痛みの回路、たとえ痛みの原因が改善されていても活動が沈静化しないことがあります。
「あんなに痛かったから動かすと痛むに違いない」と思ったり、小さい痛みに対しても「腰全体が痛んでいるに違いない」と不安や恐怖を感じたりすると、痛みの回路は過剰に興奮してます。
その結果腰痛の原因自体が改善しても、脳の興奮が収まらず痛み続けてしまうのです。
また、逆に脳の疲労やストレスが溜まってくると、脳の不調が身体の痛みとして出てくる場合もあります。
このように、腰痛などの体の痛みと脳には密接な関係があるのですね。
そこで、それを改善するためにマインドフルネスが登場します。
マインドフルネスの実施は、脳の疲労やストレスの解消に効果があると証明されており、さらに痛みの回路の過剰な興奮を抑えてくれます。
そのことにより、必要以上に感じている痛み、痛くないのに痛いと思い込み思考を取り除くのですね。
マインドフルネスを行い自分の痛みに気づき、本当にそこまで痛いのか、治っていないのかを客観的に見ることができる技術。
脳の興奮を抑え、正しい痛みの度合いの感覚へ戻す脳神経の正常化。
この二つの観点から、マインドフルネスは腰痛に効果があると言えるのです。
Googleのマインドフルネスなどの元になった「マインドフルネスストレス低減法」
この脳と痛みの関係にいち早く気づき、身体の痛みを取り除くために開発されたのが「マインドフルネスストレス低減法」です。
これは現在マサチューセッツ大学医学大学院の教授であり、同大における「マインドフルネスセンター」の創設者、ジョン・カバットジン氏によって開発されました。
彼はマインドフルネスが世界的に注目される前に、こうして痛みとの関係性にいち早く気づいたのです。
いまでこそビジネスでの生産性向上や、うつ病などの精神病の療法として有名になったマインドフルネスですが、初期に行われた科学的分析は身体の痛みに対するものだったのですね。
先述のJAMAが実験で行ったマインドフルネスプログラムも、この「マインドフルネスストレス低減法」です。
そしてこのプログラムは後にGoogle独自のプログラムSIY(サーチ・インサイド・ユアセルフ)や、うつ病治療プログラムである「マインドフルネス認知療法」の元となりました。
そう、現在のマインドフルネスの流行の発端は、ビジネスでの生産性向上目的でも精神病の療法目的でもなく、腰痛のような体の痛みへの治療法として注目されたことなのです。
よって、マインドフルネスを腰痛の治療として行うのは正しい在り方と言えるでしょう。
マインドフルネスのやり方
基本のマインドフルネスの方法は、自分の呼吸のみに意識を向けることで雑念を払うといった、いわゆる瞑想です。
リラックスした姿勢で自分の呼吸に集中、雑念が湧いたらそれに気づきその雑念を捨てる。
それの継続が基本のマインドフルネス瞑想となります。
この基本のマインドフルネス瞑想も十分に効果が見込めますが、実はより体の痛みに有効な瞑想方法があります。
それが「ボディスキャン」という方法です。
このボディスキャンの手法を行うことで、具体的にどこで痛みが発生しているのか、どこに違和感を覚えるかにより気づきやすくなります。
基本の瞑想と同じく手軽に行えるので、是非基本瞑想と併せて行ってみて下さい。
マインドフルネス応用、ボディスキャンのやり方と効果
以下がボディスキャンの方法です。
1. 横たわって呼吸に注意を向ける(椅子に座っても良い)
2. 始めは左足のつま先に注意を向ける
3. 自分が吸った息が体を通って左足のつま先に移動するのを感じ、その後逆向きの感覚を感じながら息を吐いていく。このように体に意識を向け「スキャン」していきます。
4. 終わったら次は左足のつま先を同しように行う。このように同様のプロセスを全身で行う
この方法により、「痛みや肩こりが永遠に続くのではないかなどの間違った捉え方」、いわゆる認知療法における「認知のゆがみ」を修正していきます。
この瞑想や基本のマインドフルネス瞑想を行うことで、脳の痛みをコントロールする前体状皮質、島の活動が活発化し、体の感覚を司る感覚野の活動が低下します。
よって、痛みに強い脳構造へ変化していくのです。
マインドフルネスで腰痛を改善していこう!
マインドフルネスによって腰痛が改善するというのは、最先端の医学や脳科学によって証明されています。
実験結果では、指圧などのケアよりも高い効果が出た事実も有り、今後ますます療法として注目されていくでしょう。
もちろん、現在普及しているマインドフルネスの基本効果も見込めますので、腰痛改善のためにマインドフルネスを取り入れてみてはいかがでしょうか。